私は、日々の救急救命士養成と並行して、様々な団体に向けて救急救命講習を行っております。
その受講者は非常に様々です。
ある日は、中学や高校へ訪問し、生徒さんたちを対象に救急救命講習を行うこともあれば、ある時は市民祭りのイベントの一環として、子供さんからお年寄りまでを対象に講習を行うこともあります。
こうした活動に、私は本校の救急救命学科の生徒を同行させ、生徒たちが受講者に、救急救命の方法をレクチャーします。
同行する生徒は、国家試験を控えた3年生の時もあれば、入学してまだ半年足らずの1年生でも連れて行き、受講者に救急救命方法を説明させます。
なぜ、私が救急救命のプロではない、生徒を同行させるのか。
今回は、私が考える救急救命講習会の在り方をここでお話します。
受講者の目線での救急救命講習会
普段よく見る救急救命講習と言えば、消防署の人が「心肺蘇生」「胸骨圧迫」など、救急救命講習でよく耳にするワードを使いながら、講習を行います。
もちろん救急救命のプロから教わる講習は、現場を体験しているだけに、説得力もあり、臨場感もあるリアルな話を聞けるでしょう。
実際の救急救命講習で、「胸骨圧迫」「小児に対する心肺蘇生」という言葉を耳にしても、知識の少ない一般人にとって見れば、「胸骨って、実際どの部分なの?」「小児って何歳まで?」と、素朴な疑問が沸くことも多いと思います。
生徒たちは、誰よりもその素朴な疑問をわかってくれる立場にいます。
だからこそ、救急救命講習会では難しい専門用語は使わずに教えてくれます。
過去に生徒を同行させた講習会では、受講者の多くの方が
「生徒さんが私たちと同じ目線で教えてくださった」
「救急救命講習会で教えてもらう用語は、少しマンネリ化を感じていたが、生徒さんから教えてもらう説明は、専門用語が過ぎなくて、新鮮だった」
このように仰ってくださっています。
確かに生徒は救急救命のプロではありません。実際の現場にはまだ立ち会っておりません。
ついこの間まで、受講者と同じように救急救命の対しての知識が少ない一般人でした。
だからこそ、「受講者の立場」に立って、講習に挑むことができるのです。
救急救命講習会を思い出として残す=強く記憶に定着化する
救急救命講習会では、講習会プラス思い出として受講していただけるように考えております。
大人ではなく、まだまだ若者である生徒たち。
例えば、中学、高校での講習会。
受講される中学生や高校生と、それほど年代がかわらないような生徒たちとの講習は、若者特有のコミュニケーションの取り方で行われます。
言葉使いや、合間に交わす会話は共通する年代なだけあって、講習会の途中からは、いつの間にか部活の先輩後輩かのように仲良くなっている場面もあります。
または、子供を対象とした講習会。
まだ小さな子は、私のように体も声も大きな男の人を人見知りしてしまう例もありました。
しかし、不思議なもので、生徒なら大丈夫なのです!!
「お兄ちゃんに抱っこしてもらった!!」
「お姉ちゃんが優しかった」
そして、講習会の中には年配の方もいらっしゃいます。
年配の方に対しては、ゆっくりと大きな声で優しく話すよう生徒に教えています。
生徒たちは、自分のおじいちゃんやおばあちゃんと接するように話します。
そのひと時の生徒の表情は、私の目から見ても優しく、まるで自分のおじいちゃんやおばあちゃんと過ごしているかのように見えます。
年配の方から、講習会の後にいただくお声は
「若い子が一生懸命教えてくれた」
「孫と同じような年齢の子と触れ合えて、それだけでも楽しかった」
「離れて暮らしている息子の若いときを思い出して涙がでそうになった」
など、非常にありがたいお声をいただいております。
講習会は、救急救命に関する用語を覚えるだけでは意味がありません。
どの講習会でも、人形を用いて実際の現場を想定した講習会を行っています。
しかし、単なる救急救命講習会であろうと参加したものが、温かく楽しい救急救命講習会であれば、より一層記憶に残ります。
より一層記憶に残った講習会で学んだことは、実際にあなたが人命を助けなければならない場面に遭遇したとき、「あの生徒さんが一生懸命に教えてくれたやり方だ」と強く思い出すことができ、必ず実践することができるはずです。
生徒はインプットとアウトプットを繰り返し身に着ける
人間の脳はインプットとアウトプットを繰り返すことで、学んだことを自分の知識として定着化させていきます。
生徒たちは、普段学校で授業を受け、学んだことをインプットしています。
しかし、それをアウトプットする場面は、圧倒的に少ないのです。
学校では生徒。
救急救命講習会では、講師になるのです。
ときには、受講者から思わぬ質問が飛んでくるときもあります。
救急救命講習会で受講者にとって、わからないときに頼るべき存在は、生徒しかいないのです。
ある生徒が答えられないときは、違う生徒がフォローして答えます。
上手く説明できなかった生徒は、次こそは上手く説明しようと、必死に勉強をします。
そして受講者の質問に対して、上手に説明ができたときの生徒の達成感は格別です。
先述の通り、生徒は救急救命のプロではありません。
講習会で教えることのプロでもありません。
だからこそ、生徒は必死に教えます。
年に何回も講習会をこなしているプロとは違い、慣れない講習会で必死に説明します。
講習会中に、生徒の手元をふと見ると、AEDの電極パッドを人形に貼る手が、若干震えている生徒もいました。
無理もありません。こんなに大勢の前で説明をする機会は初めてなのですから。
しかし、受講者はしっかりと見ています。汗をかき、必死に教えてくれている生徒を。
その姿を見た受講者も必死に覚えようとしてくれます。
いかがでしょうか?
私が救急救命講習会に生徒を同行させる理由、また救急救命講習会のあるべき姿を書かせていただきました。
もちろん、講習会は私一人で行うこともあります。
しかし、私が行っているこのような救急救命講習会もあるのだと、興味を持っていただけましたら幸いです。
また、私が講師をしております大阪医専救急救命学科では、このようなカリキュラムも実施しております。
もし、私の救急救命講習会にご興味を持たれましたら、ぜひご一報ください。
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